2017年末に開催されたゲームのRTA(リアルタイムアタック)イベント『RTA in Japan 2(以下RiJ2)』。
自分の好きなゲームを誰よりも早くクリアすることを目標に日々研鑽を積んでいるRTAプレイヤー(以下走者)たちが年に一度、東京・秋葉原に集まり、その腕前とRTAの面白さを伝えていくイベントだ。


会場の様子。100席以上用意されたが、人気ゲームとなると立ち見の人たちが出るほどだった。

  そんな国内最大のRTAイベントとして第2回目の開催となったRiJ2だが、イベントの運営陣にとっては本当の意味での第一回目であった。 というのも、第一回目の『RTA in Japan』は外部企業からの多大な協力があって実現したものであり、今回のRiJ2では、人員募集・機材設営・操作・会場用意などのイベントに必要なすべての要素を運営陣がなんとか解決していかなければならなかった。 さらに、海外なら『Games Done Quick(以下GDQ)』などの有名なRTAオフラインイベントがあるものの、国内では過去にRTAのオフラインイベントが開かれたことはほぼ皆無。ノウハウも蓄積されていない状況だった。 今回筆者は、主催者のもかさんと技術スタッフのHoishinさんにインタビューを行い、RiJ2の開催にあたって彼らの知られざる努力をお聞きした。一体どうやってこの一大イベントをつくり上げたのだろうか?  

~準備編~ 先人たちに学べ

ーー本日は宜しくお願いします。第一回目とは違い、今回のイベントのほとんどはRiJ2のスタッフの方々でつくり上げたものだとお聞きしました。前回と同様にゲームイベントを専門に行っている方々に頼んだ方が楽だったと思いますが、そうしなかった理由を教えてください。 もか:理由はいくつかあります。 まず一つは前回のイベントをサポートしていただいた、Twitchのアユハさんの考えを汲み取ったということです。アユハさんが関わりを持つスマブラコミュニティは、コミュニティの力で盛り上がってきて様々な大会を開き続けているというお話を聞きました。 Hoshin:GDQもコミュニティの力で運営されています。スタッフのほぼ全員がRTAプレイヤーかその知り合いで、他のゲームイベントでスタッフをやっていた人がGDQに興味を持って協力していたりもします。 あとRTAのイベントは他のゲームイベントと比べてもかなり特殊でして、あまりにも未体験な要素が多過ぎるので他のイベントチームがやったとしてもノウハウ的な面では多分そこまで違いが出ないと思います。 それと、単純に自分たちでやった方が面白いじゃないですか(笑)   ーーRTAオフラインイベントの特徴について教えてください。 Hoishin:まず非常に長時間のイベントになるということです。今回のRiJ2は5日間でしたので100時間ほどになります。それとありとあらゆるゲーム機を取り扱います。

配信PCの奥側の様子。飲み物の本数が尋常じゃなく、運営陣の戦いの跡が見てとれた

  それぞれのゲームによって映像の取り込み方法が変わったり、ゲーム画面も比率が変わるので配信レイアウトも変更しなければいけなかったのがややこしかったことと、リレー方式で順々にやっていくのであまり準備に時間をとれません。準備に時間がかかりすぎると、その後に予定されているゲームを潰すという事態にもなりかねます。 ーー実際に2〜3日目辺りで2時間ほどの遅れが発生していましたね。最終日はどうなるのか、かなり心配していました。 もか:途中まで僕の枠は潰す予定でいましたね。正直なぜ最終的に時間通りに終わったのかよくわかりませんでした(笑) 毎日1時間程度の調整時間を設けていたので、それらを全て潰してなんとかなったみたいです。走者さんたちには本当にご迷惑をおかけしてしまいました。   ーー運営の方はどのようにしてイベントのノウハウを学ばれたのでしょうか。過去に国内でRTAのオフラインイベントが開かれたことはほぼないと思います。 もか:第一回は会場の用意や走者の募集などの事務的な準備はこちらでやったので、その点については問題ありませんでした。 問題はイベント会場の配信環境・会場の音響関係・配信レイアウトの作成などの技術的な面、特に音響面はHoishinさんに任せっきりになってしまいました。 Hoishin:前回とは違いRiJ2は運営スタッフでつくっていくという話を聞いた時、ちょうど僕は『RPG Limit Break』という海外のRTAイベントに参加することが決まっていました。それならちょうどいい機会だということで配信環境に関するボランティアにも応募し、技術面について学んでくることにしました。 ーーそれは良い機会でしたね。そこでイベントのノウハウを学んできたと。 Hoishin:そうですね。会場では「このミキサーなんなの?」「この線なんなの?」っていう感じでずーっと聞いて回っていましたね。向こうの人は本当に親切でなんでも答えてくれました。ショーケース的なイベントをみて、「RTAのイベントってこういう風にやるのか」という感覚はつかめました。 ーー今回使われた配信のレイアウトもかなり特殊なものだと聞きました。あちらはどういうものなのでしょうか? Hoishin:あれはNodeCGというフレームワークで作った配信グラフィックプログラムです。

Hoishinさんがつくったレイアウト。
右画像の管理画面から配信レイアウト(左画像)の内容を変更できる。

RTAイベント用に僕がプログラミングして作り上げました。GDQでも似たようなものが使われています。 本来はツイートを拾って自動で表示させたりとか、ゲームリストの更新が半自動で行われたりだとかいう機能を搭載する予定だったのですが、仕事が忙しかったこともあり完成までに時間が足りず、RiJ2では結局それらの機能は見送られました・・・ 次回はもっとパワーアップして戻ってきますのでご期待ください。  

~本番編~ 気の抜けない100時間

ーーイベント中は大変でしたか? もか:あっという間に5日間過ぎてしまって考える余裕もなかったですね。朝6時に会場入りして、気づいたら日が落ちてたのでホテル帰って寝て、また朝6時にくるっていう繰り返しでしたね。 でも平均5時間くらいは眠れました。前回は不安で3時間しか眠れなかったので、精神的な面ではかなり成長したと思います。 Hoishin:僕は完成していないレイアウトを作るのに必死でした。「次のゲームDSか・・・。あっ、まだDS用のレイアウト完成してねぇ」ってな感じで。とにかく大変でしたね(笑) ーー私も全日参加しましたが、やはり初日と二日目は特に大変そうでしたね。 もか:まず開始時刻が30分遅れてしまいました。本番直前に機器同士を繋ぐケーブルの長さが足りないということに気づいて、急いで配信PCの配置換えをするという事態に。 Hoishin:そのことは正直かなりプレッシャーになりましたね。「いきなり遅れるのか・・・」みたいな。 1日目は本当にトラブル続きでてんてこ舞いでした。先ほどお話しした配信レイアウトも本番になっていざ表示させてみたところ、配信画面上ではレイアウトが崩れた状態で表示されてしまうという事故が起きました。 イベント中の配信周りの操作も非常に苦労しました。ミキサーはTwitchの方から当日お借りしたものだったので、使い方を教わるところから始めなければいけませんでした。実際は使いながら覚えたって感じでしたね。

セットアップタイムの様子。それぞれのゲームハードに対応しなければいけない。

僕は機材面担当だったので当日なんとか操作できましたが、他の運営の方は苦労されたと思います。24時間常に僕が会場にいるわけでもなかったですし。 そこは反省点の一つですね。今後は他のスタッフにも触りやすいようにしていきます。 もか:当日いきなり来てあれは無理ですね(笑) マニュアルづくりならコミケで手慣れてますので作ろうかと思います。   ーーしかし3日目からは運営の方も慣れてきたのか、かなりスムーズに進行していたと思います。  Hoishin:そうですね。結果的に致命的なトラブルも起きることなく全日程をこなせたので、僕としては今回のイベントは大成功だったと思います。 もか:前回は途中で配信が止まることが何度も起き、配信のチャットでも結構お叱りをいただきました。しかし今回は一度だけ10分ほどネット回線が停止する事故が起きましたが、それを除けば事故らしい事故は起きなかったので安心しました。 ただ、Tetris: The Grand Master series の枠はかなり心配していました。あのゲームはアーケード専用機でして、ゲームソフトが世に出回っていません。普通はゲームセンターに置いてある筐体でプレイするしかないのです。 それを今回は筐体の中にある基板と電源・アケコンなどを繋いで無理やりコンパクト化したものでプレイすることになりました。昨年のSGDQ2017では同じゲームのセットアップに1時間かかるという大事故が起きてしまいました。

Tetris: The Grand Master series のセットアップの様子。ゲーム起動に必要なモジュールを組み上げる走者。


実際に時間がかかったのは配信PCへの映像キャプチャだった。いくつかの変換器をかませてなんとか成功。唐突にスクリーンへ表示された「デバイスドライバのインストールウィザードの完了」には会場も沸いた。


  そんな代物を組み立ててPCに映像をキャプチャする方法なんて運営陣は誰一人知りません。結局走者の方に大部分を任せることになってしまいましたが、彼らはGDQにも参加経験があったため非常に手馴れていました。彼らのテトリスに対する情熱は素晴らしいものがあります。結果的にセットアップが大幅に伸びることもなかったのでよかったです。 ーー私もその時間は会場にいました。彼らが練習している時に「なんかボタンの一つが認識されなくなったから秋葉原に部品買いに行ってくるわ」って言ってそのまま会場離れたのはすごい記憶に残っています(笑) 結局直りましたね。彼らのたくましさには脱帽です。

イベントを振り返って

ーーRiJ2の視聴者数について教えてください。 もか:最高視聴者数は5500人、平均で3000人ほどの視聴者がいました。前回よりも25%ほどアップしたようです。今回は普段RTAに関わっていない方からも多くの反響がありましたね。 実はイベント開始前まで、視聴者数については結構不安がありました。第一回は大手のメディアさんがこのイベントを事前に取り上げてくださったおかげでいきなり何千という視聴者数にとどきましたが、今回は特にそういうのがなかったので・・・。しかし杞憂に終わってよかったです。 ーーお二人から見て、今回は自分たちの理想にどれほど近づけましたか? もか:んー。どちらかというと今回がスタートラインに近いと思うんですよ。初めて自分たちの手で作り上げたということが大きかったと思います。理想はこれからですね。 Hoishin:そうですね。理想とかってことはまだ考えれる段階ではなかったです。でも今まで準備したことが大体上手くいったという意味では100点満点中90点くらいはあげたいですね。 ーー改善点について教えてください。 もか:人が足りなさすぎました。5日間を数人の運営だけで回すのはほぼ無理でした。でも今回でだいたい感覚はつかめたので次回は多分大丈夫です。今後ボランティアさんを募集する予定ですので、みなさんも参加していただければと思います。 会場ももっと大きいところにしたいと考えています。今の会場の規模ではピーク時に人が入りきりませんでした。練習スペースもブラウン管1台分しか用意できず。 ブラウン管テレビを全て同じものにしてほしいという要望もありました。我々もなんとかしたいのですが、現段階では正直厳しいです。業者さんからレンタルするとしても複数台用意すると何万とかかってしまいますので。 正直お金に関する問題がかなり出てきてますね。ですが個人主催ということもありお金が関わると私たちは非常に弱いのです・・・。会場費は参加者で割り勘してなんとか支払えていますが、例えばGDQなどで行われているTシャツの販売。あれは日本では著作権的に完全にアウトです。現在はより良いイベント開催に向けて色々と方法を模索している最中ですね。マンパワーでなんとかなるところはなんとかしていきたいところです。 ーー海外のRTAオフラインイベントはチャリティーとして行なっているのが多いと思いますが、今後RTA in Japan もチャリティーイベント化する予定はありますか? もか:今のところ予定は立ってないのですが、チャリティーにしたいという思いはとても強いです。しかしまだ勉強不足でやり方が全然わからないということと、イベント運営だけでもてんてこ舞いな状態でして、実現するのはかなり後になると思います。次回に間に合わせるのも厳しいですね。 ーーありがとうございました。  


いかがだっただろうか。昨今様々なゲームイベントが開催されているが、コミュニティベースで開催されているイベントの多くは金銭的な利益も出ないのにもかかわらずここまで手間暇がかかることをやってのけている。特に今回のRiJ2は国内でほぼ前例のない種類のイベントだったため、困難を極めたのはこの記事を読んでいただければ伝わったはずだ。 近頃世間ではeSportsという言葉の認知度が高まってきたため競技的なゲームが注目を浴びてきているが、リアルタイムアタックというジャンルもここまで情熱を燃やして関わっている人たちがいる。彼らの熱量も将来世間でも認められる世界になってほしい。

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